― 陰圧閉鎖療法(PICO)と創傷被覆材の実践的な選択 ―
先日、スミス・アンド・ネフュー株式会社ご協力のもと、在宅での創傷管理をテーマとした勉強会を開催しました。
在宅医療の現場では、褥瘡や慢性創傷、皮膚剥離などに日常的に対応しますが、ガーゼや軟膏による従来の方法だけでは治癒が遷延することも少なくありません。今回の勉強会では、在宅でも実施可能な陰圧閉鎖療法(NPWT)、バイオフィルムを意識した創面管理、創傷の状態に応じたドレッシング材の選択、さらに在宅での創傷被覆材処方制度について、実践的に学ぶことができました。
今回の勉強会で重要だったポイント
今回の内容を一言でまとめると、
「創傷管理は、外用薬やデブリードマンで創面環境を整えたうえで、適切なタイミングで高機能な被覆材や陰圧閉鎖療法へ移行することが重要」
という点です。
在宅では「まずガーゼと軟膏」という選択になりがちですが、創傷の状態を正しく評価すれば、より患者さんの負担が少なく、治癒促進が期待できる選択肢があることを再確認できました。
在宅でも行える陰圧閉鎖療法(NPWT)
陰圧閉鎖療法(NPWT)は、従来は入院中に行う治療というイメージが強いですが、現在は**小型で使い捨てタイプの機器「PICO」**の登場により、在宅でも実施できるようになっています。
講義では、NPWTの創傷治癒促進効果の高さが改めて示されました。
従来のガーゼ・軟膏治療では約40日かかっていた症例が、NPWTでは14〜15日程度まで短縮できるエビデンスがあり、慢性創傷でも治癒期間短縮が期待できます。さらに、治療終了後も肉芽形成や上皮化が継続しやすいという特徴があるとのことでした。
在宅用デバイス「PICO」の特徴
在宅で使用するPICOは、ドレッシング材の上から陰圧をかける小型・軽量の使い捨てシステムです。
特に在宅で有用と感じた点は以下の通りです。
- 1週間単位で交換できる
- アラームが音ではなくインジケーター表示で、夜間の睡眠を妨げにくい
- モーター音が静か
- 仮に停止しても、ドレッシング材自体に吸収・湿潤保持機能があり、1日程度は創傷管理を継続しやすい
また、交換回数が週2回程度に減ることで、患者さんの苦痛軽減だけでなく、医療者側の処置負担軽減にもつながる点が印象的でした。
在宅での症例から見えた有用性
勉強会では実際の在宅症例も紹介されました。
- 大腿骨部褥瘡では、在宅で4週間のNPWTを行いポケットが消失し、2〜3か月で大幅に改善
- 100歳の高齢患者では、創面が比較的清浄な症例で2〜3週間後には上皮化が大きく進行
このように、創面が整っている症例では、在宅でも十分な効果が期待できることが分かりました。
保険適用と実施体制
在宅でのNPWTは、すでに保険算定が可能です。
ただし算定には、処置実施者に一定の要件があります。
算定対象となるのは、以下のいずれかが実施した場合です。
- 医師
- 皮膚・排泄ケア認定看護師
- 特定行為研修修了看護師
- 在宅NPWT認定教育制度を修了した看護師
この点は、今後在宅でNPWT導入を検討する上で非常に重要です。
慢性創傷では「バイオフィルム」を前提に考える
今回とても印象的だったのが、慢性創傷の約8割にバイオフィルムが存在するという点です。
バイオフィルムとは、細菌が形成する保護膜のことで、身近な例では洗面台のぬめりのようなものです。創面にこれが存在すると、肉眼的には大きな感染徴候がなくても、創傷治癒を遷延させる要因になります。
この前提のもとで、近年は**「創傷衛生(Wound Hygiene)」**という考え方が重視されるようになっています。
すなわち、創面を清潔に保ち、バイオフィルムを意識した洗浄・管理を行うことが重要だという考え方です。
DESIGN-R 2020で**I3C(臨界的定着疑い)**の項目が加わった背景にも、この考え方があります。
バイオフィルム対策としてのカデックス
バイオフィルムを意識した創面管理の中で、今回紹介された外用薬のひとつがカデックス軟膏です。
講義では、システマティックレビューにおいて、カデックスがバイオフィルム破壊と殺菌に高い効果を示していることが紹介されました。
カデックスの作用機序
カデックスは、デンプン由来のビーズ状ポリマーが水分を吸収して膨潤し、その中から徐々にヨウ素を放出することで効果を発揮します。
つまり、
- バイオフィルムの水分を吸収して崩れやすくする
- 細菌をむき出しにする
- 徐放されたヨウ素で殺菌する
という流れで、脱水しながらバイオフィルムを破壊するイメージです。
在宅で使いやすい製品形態
カデックスには
- チューブ入り軟膏
- シート状の軟膏分包
があり、在宅では軟膏分包が使いやすいとのことでした。
適用量が一定で、塗布の手間が少なく、コストメリットもあるため、訪問診療や訪問看護の場面で実用性が高いと感じました。
創傷被覆材は「創の状態」で選ぶ
今回の勉強会では、創傷被覆材(ドレッシング材)を**“何となく選ぶ”のではなく、“創傷の性状に応じて選択する”**ことの重要性が強調されていました。
ポケット(空洞)のある創傷
ポケットのある創傷には、充填タイプの繊維性ドレッシングが有効です。
アルゴダムトリニック
海藻由来のアルギン酸系ドレッシングで、特にロープタイプがポケット充填に適しています。
特徴は、
- 浸出液を吸収してゲル化
- 湿潤環境を維持
- 止血作用がある
- 毛細管現象でポケット内の浸出液を外へ導きやすい
という点です。
ポケット管理と止血の両面で、実践的に有用だと感じました。
浸出液が多い創傷
浸出液が多い創傷では、ポリウレタンフォーム系のハイドロサイトシリーズが推奨されました。
ガーゼとの大きな違いは、創周囲皮膚を浸軟させにくいこと、そして吸収した液の逆戻りを防げることです。
ハイドロサイトジェントル銀
- 銀含有で、吸収した浸出液に対して抗菌効果を発揮
- 感染リスクが高い患者(糖尿病、化学療法中など)に適する
ハイドロサイトライフ
- 在宅向けに開発された5層構造
- クッション性が高く、圧力分散・ズレ応力軽減に優れる
- 吸収量が多く、交換回数が多い患者に向く
- 仙骨用・かかと用など部位別製品がある
在宅で「交換が頻回になって困る」「圧がかかる部位で剥がれやすい」といった悩みに対して、かなり実用的な選択肢だと感じました。
浅い創傷や皮膚剥離への対応
浅い創傷や皮膚剥離では、ハイドロコロイド系製品は有効な場面もありますが、在宅処方制度の対象外となる場合があり、コストも高くなりがちです。
その代替として紹介されたのが、シリコン粘着剤付きの安価な救急絆創膏です。
例えば、全長のエイドのような製品は約270円/枚で、スキン-テアなどにも使用しやすいとのことでした。
浅い創傷では、必ずしも高価な被覆材だけが正解ではなく、創の深さとコストのバランスを見ながら選択することが大切だと学びました。
被覆材を使うタイミングと注意点
今回の講義では、創傷被覆材や陰圧閉鎖療法に移る前提として、創面環境が整っていることが何度も強調されました。
つまり、
- 黒色壊死がない
- きれいな肉芽が形成されている
- ぬめりなどバイオフィルムが目立たない
という状態にしてから、被覆材やNPWTに移行する、という流れです。
また、仙骨部は汚染リスクが高いため、
- 汚れた部分をカットしてフィルム材で補強
- 臀裂部の隙間にストーマ用ペーストや義歯安定剤を充填
といった工夫も紹介されました。
在宅ではこうした“ちょっとした工夫”が継続使用に直結するため、非常に参考になりました。
在宅での創傷被覆材処方制度
今回の勉強会では、在宅での創傷被覆材の処方制度についても整理することができました。
供給方法
- クリニックから直接供給
- 処方箋を発行して薬局から供給
最近は、在庫管理の負担軽減から後者が増えているとのことでした。
適用条件
おおまかには、
- 患者さんが在宅療養指導管理料などを算定している
- 創傷が皮下組織に至る褥瘡(DESIGN-RでD3以上)
であることが必要です。
処方制度のメリット
- 症状詳記があれば3週間を超えて継続処方可能
- 必要枚数の調整がしやすい
- 医療機関・患者双方の費用負担軽減につながる
処方箋記載の注意点
ここは実務上かなり重要でした。
保険算定の対象は、被覆材全体のサイズではなく、パッド部分の面積です。
そのため処方箋には、パッド面積 × 1cm²あたり10円の考え方に沿って記載することが推奨されるとのことでした。
薬局とのやり取りで混乱が起きやすい部分なので、今後は配布冊子やメーカーサイトを参考にしながら、正確に記載していく必要があると感じました。
在宅創傷管理の実践的な流れ
今回の内容を、在宅での実践フローとしてまとめると次のようになります。
基本の流れ
- 外用薬で創底環境を整える
- 肉芽形成やバイオフィルムの有無を評価する
- 状態が整ったら、創傷被覆材やNPWTへ移行する
この順番を意識することが重要です。
また、期間の考え方としては、
- 陰圧閉鎖療法:1局所につき最大4週間
- 創傷管理用薬剤:期間制限なし
- 創傷被覆材:処方制度を使えば3週間以上の継続供給も可能
であり、それぞれ制度を理解したうえで運用する必要があります。
今後の当院での活かし方
今回の勉強会を通して、当院でも今後以下の点を意識していきたいと考えています。
- 在宅での陰圧閉鎖療法(PICO)を、新たな選択肢として検討する
- 治癒遷延例ではバイオフィルムを前提に創面を評価する
- DESIGN-RでD3以上の褥瘡では、創傷被覆材処方制度の活用を検討する
- 浅い創傷や皮膚剥離では、コストも踏まえて適切な代替品を選択する
- 仙骨部の汚染対策など、在宅ならではの工夫を取り入れる
- 在宅NPWT認定教育制度について情報収集し、実施体制を整える
- 処方箋記載時はパッド面積基準を徹底する
まとめ
在宅での創傷管理は、単に「薬を塗る」「ガーゼを当てる」だけではなく、
創面の状態を評価し、外用薬・被覆材・陰圧閉鎖療法を適切なタイミングで使い分けることが重要です。
今回の勉強会では、在宅医療でも活用できる治療選択肢が確実に広がっていることを実感しました。
患者さんの苦痛軽減、処置負担の軽減、治癒期間短縮につながる可能性があるからこそ、今後もこうした知識を院内で共有し、実践につなげていきたいと思います。
スミス・アンド・ネフュー株式会社の皆さま、このたびは貴重なご講義をありがとうございました。